代表幹事就任のご挨拶
経済理論学会会則にしたがって昨秋に選出された本学会幹事の互選によって、不肖私が本年4月より3年任期の代表幹事に就任いたしました。初代代表幹事大内兵衛先生にはじまり赫々たるお名前が続くリストの末尾に連なることを光栄と思います。誠心誠意、責務を果たすべく努める所存ですので、どうぞよろしくお願いします。
研究者の中には学会への参加を嫌う人もいますが、私は、研究者の任意加入の団体である学会(アカデミック・ソサエティ)は学術研究にとって不可欠の制度であると考えています。多くの研究者が所属し、そこから経済的支援を受けている大学や研究所などは、それぞれが組織としての独自の利害をもっていて、すべてが学術的な基準にしたがって動いているわけではありません。とくに最近では、国立大学法人化、財務・人事の両面における評価制度の導入、研究費配分の改革などにおいて大学単位での競争と効率化を重視する政策がおこなわれたことは、日本の学術にさまざまな歪みをもたらしていると思われます。大規模大学においても、研究者個人の自発性よりも組織的な利害を優先する傾向が生まれていますが、規模の小さな大学・研究機関に所属する研究者や独立した研究者(退職者を含む)は周辺に追いやられがちです。研究領域における歪みも目につきます。私は、これらの傾向を抑制し、学術を予断のない討議によって前進させるのは、研究者の自発的な結集体である学会の役割であると思います。
本学会は、半世紀にわたる活動の蓄積を有し、約一千名の会員を擁しています。現代の経済社会に対して批判的な理論的研究をおこなうことを標榜していますから、十分な研究条件が保障されている会員ばかりとはいえないでしょう。しかし、毎年400人近い会員が参加する年次大会を開催するほか、非会員も投稿可能な機関誌『季刊・経済理論』を「批判的研究の公器」として年4回刊行しています。さらに、メイリングリストJSPEと学会サイトをオンラインで運用しています。今年度からは、経済理論学会奨励賞を設け、優れた研究をおこなった若手・中堅研究者の顕彰を開始します。また、地方ごとに部会が設けられ、研究会を随時開催しています。本学会は、このような活動をつうじて、所属組織に依存しない研究活動とその成果の公表を助け、それによって経済学の領域における批判的な研究を促進して来ました。これらの活動をしっかりと継続・発展させることが何よりも大事です。
他方、現在の人類社会は、情報面・金融面におけるグローバリゼーションが進展しただけでなく、地球大の環境危機が切迫するなかで経済の持続性が問題になっています。また、中国やインドなどの巨大な人口を擁した新興経済諸国が成長を開始し、従来の先進国中心の世界経済のガバナンスが維持不可能になっています。そのような新しい状況のなかで政治経済学的な分析を発展させていくためには、視野の大胆な拡大と理論的な刷新が必要です。経済学批判としての政治経済学は防御的な研究プログラムではなく、既存のすべての経済理論と実証研究に対してオープンな積極的な研究プログラムであるはずです。本学会も、半世紀の蓄積によって培った諸力をもとに、学際面・国際面において攻勢的な発展に心がけるべきでしょう。
本学会の名称は経済理論学会ですが、ここでいう「経済理論」とは、本学会の英語名称Japan Society of Political Economyに示されるように、ポリティカル・エコノミーです。いうまでもなく、ポリティカル・エコノミーは狭義の理論にとどまるものではありません。理論・政策・歴史の全般にわたって、社会的な観点に立って批判的な研究をおこなうことが経済理論への貢献になるというのが、本学会における共通の了解であると信じます。
会員のみなさまが、この学会を開放的な学術フォーラムとして積極的に活用し、批判的な経済学の発展を推進していただけますよう、最後にそのようなお願いを申し上げて、就任のあいさつとさせていただきます。
2010年4月20日
八木紀一郎
(京都大学名誉教授・摂南大学経済学部教授)