「50周年記念学会史」に投稿しました問題提起

「私と経済理論学会-マルクス経済学会の大合同を」と題して、以下のような問題提起を「50周年記念学会史」に書きました。このフォーラム「会員の広場」の活性化のために、同文をここに投稿しては、とのご提案をいただきましたので、以下のように投稿しました。この「広場」の活性化に役立てば幸いです。      京都大学 大西 広

 経済理論学会以外にも、日本にはマルクス経済学の流れにあることを明示する学術集団がいくつか存在する。「学会登録」されたものだけでも、政治経済学・経済史学会、マルクス・エンゲルス研究者の会、それに私が現在理事長を務める基礎経済科学研究所があり、それ以外にも独占研究会、ポスト冷戦研究会などがある。そして、このところ報告希望者が増え続けている毎年の理論学会大会は、それら諸研究集団の一年の研究成果の発表の場として大きな意味をもつようになっている。大変喜ばしいことである。
 マルクス経済学には、「マルクス」の解釈や評価において大きな隔たりがあるために、そのそれぞれの解釈や評価毎に小さくインテンシブな研究会を作りたいとの誘惑がつよく、それはそれとして大いに理解できることである。あまりに離れた理解の論者の間では、討論は常に入口のところで終ってしまい、よって突っ込んだ討論が成り立たない。このため、それぞれ小集団で詰めた討論がなされることは学術の発展にとって極めて重要なことである。
 しかし、それでも、現在存在するそれぞれの小集団のそうした「学派」としてのまとまりはやはり希薄化している。時代は学派創始者たちのそれから大きく変化してきており、また隣接する他の学派との接点も深まっている。したがって、この状況下で「マルクス経済学の総合学会」としての理論学会の役割は高まり、またさらに今後の対応が望まれている。というより、そうした学派横断的な議論が今こそ重要なことはない、と私は強く考えている。
 たとえば、今までのマルクス経済学界の各学派の重点的主張ではなくとも、「生産的労働」という概念を持つマルクス経済学の理論を共通に掘り起こすことが今こそ必要になっている。金融に特化した経済が世界に登場し、かつまた破綻をするという新たな事態に直面して、この論点はもっと深められ、また社会的にアピールされなければならない。今回の経済危機でテレビの特集番組は「ものづくりの大切さを再発見」と言うが、その際にマルクス経済学の生産的労働論が取り上げられないのは我々の側のアピール不足が原因である。この論点はこれまでの学派に関わらない、マルクス経済学が共通に認める基本的主張であるから、その責任はなおさらである。
 
 したがって、我々理論学会は「マルクス経済学の総合学会」としての自覚をさらに高め、この社会的責任遂行のため、大胆な自己革新を行わなければならないのではないか、と私は考えている。具体的に提起すれば次のようになる。
まず第一に、上記のようなマルクス経済学内の諸学派を集めた連合集会の開催である。アメリカではこのような連合集会が常態化しており、さらに日本国内でも、開発経済学系や統計学系の諸学会が共同で連合集会をするということがあった。2日日程では収まりがつかず、3-4日の日程となってしまうかも知れないが、それくらいの活動が現在求められているのではないだろうか。ちなみに、私が今年(2009年)京大で開催したある国際会議も3日半の日程で開催されている。開催校が見つからない場合、私は京大で引き受ける用意がある。
また第二に、こうした協力関係構築の上に学会それ自体「大合同」が必要となるのではないだろうか。近代経済学の「日本経済学会」は過去に一旦「理論経済学会」と「計量経済学会」に分裂したものを再度「大合同」して形成されている(合同当初は「理論計量経済学会」と自称した)。ここには日本を代表する学会としての自覚が表現されていて、さすが、と思わすものがある。この「大合同」も多くの抵抗があったことを考えると、我々の側も多少の抵抗にくじけてはならない。私は政治経済学・経済史学会との大合同が新生の「政治経済学会Japanese Association for Political Economy」として実現することを強く希望している。
さらに第三に、こうした国内基盤の強化を元に世界への発信を強化してもらいたい。私は中国を拠点とする世界学会「世界政治経済学会World Association for Political Economy」の副会長ということになっているので余計に思うのだが、日本の珠玉のような理論的成果が海外発信されておらず、非常に残念に思っている。逆に言うと、我々よりもっと英語の下手な中国人研究者たちが世界に打って出ようとする姿は尊敬に値する。今のところ全世界を対象とするマルクス経済学の世界学会は「世界政治経済学会」しかないが、それ以外の国際学会も含めて連携を是非強化されたい。2007年には島根で「世界政治経済学会」大会を開催したが、いずれは我々の新生学会として主催してもらいたいものだと考えている。
 以上のようなことには資金も必要である。この度集めている記念募金の使途としても検討いただければ幸いである。