第69回大会

経済理論学会第69回大会

北星学園大学

2021年10月16日(土)〜17日(日)

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共通論題:コロナ禍と現代資本主義


新型コロナウィルス感染症の拡大は,世界的パンデミックの様相を呈し,経済・政治・社会・文化に大きな爪痕を刻むこととなった。

感染の実相は質・量ともに十分には解明されていないが,感染拡大とそれによる死者の増加が伝えられるとともに,感染症学の見地からの社会の制御が求められるようになり,いわゆる「密」の回避や人の移動の制限・管理など,各国でロックダウンや強力な自粛策が講じられていくこととなった。こうした社会変容の世界規模での進行は,経済・政治・社会・文化に大きな影響をもたらした。急激かつ大規模なインパクトは社会意識にまで浸透し,パンデミックが終息したとしても,その影響は残らざるをえないものと考えられる。

資本主義の発展と共に進行し,冷戦後にはさらにその勢いを加速させていたグローバル化には急ブレーキが踏まれることとなり,ヒトの移動は急停止することとなった。技能実習生に依存していた農業や水産加工業への打撃など,影響はローカルな領域にも拡がった。モノやカネの移動についても,ヒトの動きがこれらを裏打ちしていた面があったことを見過ごすわけにはいかない。進行が止まることはないものとみられていたグローバル化は今や変調を余儀なくされている。資本主義とグローバル化との結びつきは自明であるかのようにも考えられていたが,そもそも本当に不可分なものであるのかどうか。市場経済と資本主義の関係,資本主義の経済体制としての完結性など,理論的な課題との関連も意識される必要がある。資本主義とグローバル化について,理論・実証両面での再審が必要になっている。

人類は,群れ,寄り添い,つながることによって文化を育み,近代社会は,都市や集会・イベントに人々が大規模に集うことを促してきた。人と人との対面でのコミュニケーションの回避から,テレワークが進行し,サービス業は大きな打撃を受けることとなった。高度消費社会の展開のもと,サービス化の進行により蓄積機会を得てきた現代資本主義は,「新しい生活様式」の推奨やその一定の定着のもとで,蓄積の困難に直面している。現代資本主義の特色としての脱工業化・サービス化の再検討とともに,都市への経済・社会活動の集積の意義と問題性の再考も求められよう。グローバルシティの摩天楼は現代の恐竜になってしまうのだろうか。

今次パンデミックは,現代資本主義のもとでの政府のありかたをあらためて問い直す契機ともなった。感染対策・医療充実の施策や経済対策のため,各国政府はさまざまな対策に財政支出を行い,前例のない規模で国債を発行した。それを可能とするために金融緩和も推し進めるなど,財政政策・金融政策はどこまで異例の拡大をすることができるのかが試されることにもなっている。治療薬・ワクチンや医療機器における許認可が市場の形成を大きく左右することも浮き彫りとなるなど,複雑化した現代社会における政府の市場に及ぼす影響の大きさも印象づけられることとなった。新自由主義的政策の進行がもたらしてきた保健医療や福祉から公共交通に至る広い領域における公共性の毀損による社会基盤の脆弱化の露呈,そして,感染拡大や経済的影響を食い止める政策にも階級・階層的利害がなお投影されていたとみられる点は,見逃すことができない。

感染対策の観点から政府による生活の管理・統御を積極的に求める声の高まりは高度管理社会の進行を予感させ,強権的な政策による感染封じ込めを採った国家の「成功」も伝えられた。感染対策の当否とは別に,社会的意思決定の準拠枠の世界規模での変動の過程は社会科学的に分析される必要があるのではないか。近代を相対化する視座をもち,階級意識やヘゲモニーを論じる枠組みの基礎を提供してきた社会経済学・政治経済学と周辺諸学において,こうした課題の検討に取り組む必要がある。

このように,現代資本主義の特色や近代社会の理念の意義と限界は,あらためて問い直される必要がある。コロナ禍で,国際社会,そして現代資本主義は,大きく揺るがされた。この未だ現在進行形の状況を総合人文知として多角的に把握していく上で,マルクス経済学をはじめとする社会経済学・政治経済学が有する総合性・体系性は,分析枠組みとして大きな優位性を発揮するはずである。そして,そうした視角からの検討について,研究者が一同に集うかたちで議論を深める場をもつということは,この秋の当学会の取り組みに相応しいものであると考えられる。

以上の今次大会の共通論題の趣旨をご理解いただき,自薦,他薦問わず,積極的に各種論点に関するご報告の推薦をお寄せいただきますようお願いいたします。