学会のご案内

代表幹事挨拶

 会員のみなさん,こんにちは。このたび,代表幹事に選出されました後藤康夫です。どうぞ,よろしくお願いいたします。

 このところ,世界は,至る所で分断と暴力が広がり,戦慄を覚える事態となっています。文字通り,「ポスト冷戦のアポカリプス」です。現実ベッタリでいると,「資本主義の終わりを想像するより,世界の終わりを想像するほうが簡単だ」との冷笑主義に陥るほかありません(F.ジェイムソン, 2016 年)。

 他方,広く知的世界を見てみますと,周知のように,ふたつの「人類史的問い」をめぐる洞察が注目されます。「アントロポセン・人新世」(「キャピタロセン・資本新世」)については,この提起によって,イギリス産業革命起点の資本主義的生産・蓄積様式の歴史性が「自然と人間」という「自然的必然」の関係において歴然と画されることになりました。「シンギュラリティー(技術的特異点)」(「ポスト・ヒューマン」)の方は,これを切り返し止揚する形で,「言語・道具と労働」という人類史的視点から「分散と協働の生産様式」を原理とする「ポスト資本主義」(P.メイソン, 2015 年)プロジェクトがグローバルに展開されています。

 20世紀末の冷戦体制解体とともに一度目は退場することになった「大きな物語」の,21世紀的再創造です。ここに,「世界の終わり」という破局のなかをくぐり抜ける形で「生き延びる通路」が敷設され,「資本主義の終わり」,「階級社会の終わり」,つまりは「人類史の本史の始まり」の実在的可能性が切り拓かれることになります。

 本『ニュース』において,歴代の代表幹事がリフレーンしてきたように,この人類史的過渡期の始まり,巨大な「飛躍」の始まりにあって,「グローバル資本主義」という生きた現実の具体的な構造分析,この分析の鋭利なメスの役割を担う理論的概念・枠組みの新たな展開,そして現実世界の総合的な社会科学的認識,これら三つの課題の重要性が決定的に高まってきています。

 本学会の責務は,こうした課題に応えるべく,方法の多様性,理論の批判性,そして社会認識の総合性という,その圧倒的に優位な特性を大いに発揮して,知的営為の「ハブ&プラットホーム」の中心を担うことにあると考えます。

 残念ながら,足元を見ますと,会員の高齢化と減少,会費の漸減など,極めて深刻です。これを突破し前進していく主体は,とりわけ若い世代の活気溢れる知的営み,その潜勢力が思う存分自由に伸びゆく学会活動にあります。より一般的に A.スミスの「諸国民の富」に倣って言えば,多様にして多彩な会員の参加,広く市民に開かれた交流,そして海外の研究者とのグローバルな協働,これらが相乗し合って産み出す「多様性の富」です。「知的創造のコモン・ウェルス」です。

 本学会活動の二大基軸をなす年次大会と『季刊 経済理論』へのご協力,ご支援を,あらためてお願いする次第です。

202210

代表幹事 後藤康夫