経済理論学会の2025~2027年度の代表幹事に選出されました田中英明です。
35年ほど前に私が入会した頃の本学会は、年次大会とそれを記録した『年報』の発行が主な活動で、『年報』への査読付き論文の掲載が始まったところでした。大会の分科会も8~10程度でしたが、それが最近では複数のInternational Sessionを含めて20近くへと拡大しています。『年報』は季刊化し、ポリティカル・エコノミーの総合学会にふさわしい多様な特集と投稿論文で構成される「批判的な研究の公器」たる『季刊 経済理論』へと発展しました。さらに、非会員との協力・交流をともなう常設の「問題別分科会」、優れた成果をあげた新進研究者を顕彰する「経済理論学会奨励賞」、Routledge社と協力し経済学の領域における批判的な成果を国際的なレベルで顕彰する「経済理論学会ラウトレッジ国際賞」と、本学会の活動内容も多岐にわたっています。
こうした発展は学会というものの役割が、学問研究の最先端を示すのみならず、若手研究者の成長を支援する場ともなってきたことの反映ではあります。ですが、前代表幹事の「挨拶」にもあったように、本学会は知的営為の「ハブ&プラットホーム」の中心を担うことをその責務としてきました。いわば新たな薪と新たな風を絶えず送り込むことで、ポリティカル・エコノミーの火を次代に向け、熱く高く広く燃やし続けるという責務を積極的に選びとってきたのです。
なかでも、桜井書店というパートナーを得て、全国の書店で手に取ることのできる「査読付きの季刊誌」を20年以上にわたり1号たりとも欠けることなく発行し続けていることは、広く市民と交流・協働し実践へと開かれた知的営為を志向する本学会の最も誇るべきところでしょう。
他方で、こうした活動のための会員の負担は大きく、さらにはその財政基盤を安定させるために学会や幹事会・事務局体制の改革や再編を重ねること自体にも、これまでの幹事・会員の方々が多大の負担と貢献をしてきました。あらためて学会運営を担うことの責任を強く感じています。
いまや日本の大学、とりわけ国立大学の文科系・社会科学系研究科は、多様な関心やアプローチをもつ次世代の研究者を育成する能力を失いつつあります。日本の人文・社会科学にとって危機的状況であり、とりわけ批判的・異端的な研究を重んじてきた本学会にとって重大な再生産の危機でしょう。これまでの「若手研究者支援」の枠組だけで打開しうるか心許ないと言わざるを得ません。
もちろん、悲観ばかりでは一歩も進めません。ポリティカル・エコノミーの知的営為が魅力を放つ限り、それを学び探究しようとする新たな担い手は、主流派のコースワークに一元化した研究科からでも、あるいは経済・経営系以外の様々な学部・研究科からも、さらには大学院以外の様々なルートからも集まり続けることでしょう。そうした新たな研究者の育成のために学会に何ができるのか、残念ながらその答えを持ち合わせているわけではありません。新幹事の先生方、そして会員のみなさんとともに、学会活動のあり方を見つめ直し新たな試みや改革の道を探っていきたいと考えています。
同時に、やはりポリティカル・エコノミーの魅力をますます高めていくためにも、様々な方法・学派が交わる学会の利点を活かしつつ、私たち会員がさらに真摯に研究活動に邁進することこそが肝要であることは学会である以上、当然かもしれません。
学会活動と運営へのご協力・ご支援、どうぞよろしくお願い申し上げます。
2025年4月
代表幹事 田中英明