東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故についての声明

2011年4月16日   経済理論学会幹事会

 

 経済理論学会の幹事会は、去る3月11日におきた東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした巨大津波によって生命を奪われた方々に心からの弔意を表します。いまなお苦難のなかにおられる被災者のみなさまをお見舞い申し上げるとともに、災害対応・救援・復旧・復興の活動にたずさわっている方々に深く感謝いたします。また、いまだ進行中の東京電力福島第一原子力発電所の事故について、放射能汚染等による直接間接の被害のひろがりとともに、この事故で欠陥を露呈した現在の原子力発電のあり方を憂慮していることを表明します。

 今回の地震が通常の予想以上の規模のものであったからといって、社会科学者としては、すべてを「未曾有の自然災害」としてその判断を停止することはできません。震災についてだけでも、予知と警告、そして防災の活動は十分であったのか、初期の段階で情報を途絶させずに効果的な救援体制を組むことはできなかったのか、ライフラインの脆弱性は何によるものか、救援および復旧の体制は適切であったのか、救援・復旧・復興の経済的支えはどうあるべきか、という一群の問題が浮かび上がります。とくに原発事故については、その発生および事故処理の遅延と拙劣さは、これまで原子力発電を推進してきた体制と政策に起因するのではないかと疑わざるを得ません。これまでの原子力政策は、政府および、原子力産業・電力会社、政治家、そして一部学者やジャーナリストを含む原子力ロビーによって推進されてきました。そうした政策形成のあり方は、現在の事故防止対策や事故処理の体制などとともに全面的な点検と見直しが必要であると思われます。また、当面の電力不足のもとでの産業および生活の維持と将来のあり方、復興とその経済的負担のあり方など、今後の日本の産業・経済や財政のあり方にかかわる構想も必要でしょう。

 経済学は、その語が経世済民から来ているように、社会と人々の生活を苦難から救い出し安定させるための学問です。それが支配者の統治の術から市民社会の自己認識のための学となったときに社会科学としての経済学が成立しました。経済理論学会に集う研究者は、社会科学として経済学を研究する立場から、この震災の被害・復興問題に取り組むとともに、それによって提起されている日本経済の問題を経済理論にかかわる問題としてとりあげたいと思っています。

 本日の幹事会は、今秋9月17−18日に立教大学で開催が予定されている第59回大会の2日目の午前に、震災と原発事故について参加者全員で討議するための特別部会を設けることを決定し、その組織者として、後藤康夫(福島大学)・森岡孝二(関西大学)・八木紀一郎(摂南大学)の3幹事を指名しました。この特別部会は並行分科会のないプレナリーセッションです。このセッションでは、今次の震災・原発事故問題に対する社会科学的な取り組みにかかわる提言を、会員・非会員を問わずお寄せいただき、それを基礎にして討論をおこないたいと思います。ぜひみなさまのご意見を、学会事務局あるいは上記3幹事にお伝えいただけるようお願いします。