経済学分野の教育「参照基準」第二次修正案についての意見書

日本学術会議経済学委員会

                    樋口美雄委員長 殿

経済学委員会経済学分野の参照基準検討分科会

                    岩本康志委員長 殿

 

 

 私たちは、昨年10月に当時の「参照基準」の策定準備作業についての情報をもとに、以下の3点を要望しました。

1.自主性・多様性を尊重し、画一化・標準化の促進を避けること

2.ミクロ、マクロ的視角とともに政治経済学的な視角を経済学教育のなかに位置づけること

3.総合的視野の重要性と経済学的分析に対する自省

 今回の第二次修正案についての私たちの判断も、この3点の要望を基準とするものになります。

 まず、第1点については、修正案において「標準的アプローチ」の記載がなくなり各大学の自主性が承認されたことを評価します。モデル的方法がバランスを失するほど強調されている等の問題点が残っていますが、経済学教育の内容および方法については、それぞれの大学・学会・教員の創意と努力に委ねられるものと解釈できる案になっています。

 第2点については、政治経済学的な内容を案文の中に盛り込みながらも、「政治経済学的な資角を経済学教育のなかに位置づける」ことの要望に対しては「拒絶」とは言わないまでも「回避」されていると判断します。私たちも「政治経済学」を科目名として記載することを要望したわけではありませんが、「政治経済学的な視角」は、経済生活における現実問題をその社会的背景や利害関係とともに分析・把握することは「ミクロ的視角」「マクロ的視角」に還元されない独自の意義をもつと考えます。この修正案においても、経済問題では利害対立や支配・従属関係が結びついていることが多いというリアルな認識が弱いと感じます。したがって、3(1)「経済学の方法」で、「ミクロ的手法」「マクロ的手法」について説明したあとの、ゲーム理論がでてくる前に以下のような説明の段落を入れることを要望します。

 「経済において登場する問題は、国内問題においても国際問題においても、多くの場合利害対立をともない、ときには政治的な支配・従属の関係をともなっている。したがって、そうした対立関係や支配関係と経済的関係を合わせて考察する政治経済学的な視角が有益なことがある。」

 第3点の要望については異論がないと聞いていたのですが、明示的に記述されている箇所が少ないことが気になります。これについては、2①「・全体を総合的に把握する能力」や、同②「・コミュニケーション能力」「・グローバルな市民」としての社会的責任」において、あるいは6(1)「経済学を学ぶ学生の教養教育」の説明のなかでより明示的に盛り込まれるべきです。

 たとえば、2①「・全体を総合的に把握する能力」の末尾に「また経済問題が政治問題や倫理問題と結びついているような場合には、効率性を基準とした経済学的な結論がそのままでは受け入れられない場合も多い。民主的な討議プロセスや倫理的要素の考慮を視野にいれた総合的な視点が必要とされる。」と付加する。

 あるいは、6(1)「経済学を学ぶ学生の教養教育」の第3センテンス「多様で膨大な数の社会問題が存在する。」のあとに、以下の文章を付加し、その後の文章を調整する。

「資本主義的な市場経済との関連で、これらの問題の全体像を解明し、それへの対処の方法を考えてゆくことは、これからの社会のあり方を広い視野で検討してゆく学問的教養の基礎になる。民主主義的な討議と決定、倫理的な考慮との関連で経済問題を捉えることは現代の教養教育にとって必須であろう。さらに理系を含めた・・・・」

 以上、ご検討いただけるよう要望します。

2014年3月17日 

経済理論学会幹事会