Robert Boyer

授賞対象著書

(1) Boyer, R. and Yamada, T. (eds.) Japanese Capitalism in Crisis: A Régulationist Interpretation, Routledge, London and New York, 2000.

(2) Boyer, R., Uemura, H. and Isogai, A. (eds.) Diversity and Transformations of Asian Capitalisms, Routledge, Abingdon, 2012. En Français: Capitalismes asiatiques: deversité et transformations, Presses universitaires de Rennes, Rennes, 2015

(3) Boyer, R., Uemura, H., Yamada, T. and Song, L. (eds.) Evolving Diversity and Interdependence of Capitalisms: Transformations of Regional Integration in EU and Asia, Springer, Tokyo, 2018.

※授賞参考著書(フランス語):Boyer, R. Économie politique des capitalismes: Theorié de la régulation et des crises, La Découverte, 2015.(山田鋭夫監修・原田裕治訳『資本主義の政治経済学:調整と危機の理論』藤原書店、2019年8月)

授賞理由

受賞者ロベール・ボワイエ氏は、フランス数理経済計画予測研究所及び国立科学研究所教授、 並びに社会科学高等研究院研究部長、パリ経済学校教授を経て、現在はバリ・米州研究所のエコ ノミストの職にある。授賞対象著書は(1) Boyer, R. and Yamada, T. (eds.) Japanese Capitalism in Crisis: A Régulationist Interpretation, Routledge, London and New York, 2000、(2) Boyer, R., Uemura, H. and Isogai, A. (eds.) Diversity and Transformations of Asian Capitalisms, Routledge, Abingdon, 2012. En Français: Capitalismes asiatiques: deversité et transformations, Presses universitaires de Rennes, Rennes, 2015、(3) Boyer, R., Uemura, H., Yamada, T. and Song, L. (eds.) Evolving Diversity and Interdependence of Capitalisms: Transformations of Regional Integration in EU and Asia, Springer, Tokyo, 2018 である。すでに邦訳が刊行されている 4 冊目のフランス語著書(Économie politique des capitalismes: Theorié de la régulation et des crises)は、本国際賞授賞に際しての参考著書である。

ボワイエは 1980 年代以降、ほぼ40年にわたってフランス出自のレジュラシオン理論による資本主義の政治経済学的分析を牽引してきた泰斗として、わが国でもつとに知られている。1976年の ミシェル・アグリエッタによる『資本主義のレギュラシオン理論』の公刊によって、その理論創設がなされたレギュラシオン理論は、その後、ロベール・ボワイエという卓越した理論経済学者の主導のもとで、現実の資本主義経済の多様性とその変容と進化をめぐる各種の重要な、そして経済学の内外を問わない諸学説(グラムシ、プーランザスの政治学的アプローチや、ブルデュー流の経済社会 学的アプローチ、セーレンの比較歴史分析など)との対質を通して、その適用範囲を拡張させるとともに、その理論自体も不断の自己展開を遂げてきた。ボワイエが中心的な編者として編まれた 上記の(1)から(3)の3つの編著書は、1980年代・1990年代での基礎概念の深化と個別領域研究 での議論の彫琢を経て着手されることになった日本・韓国・中国等のアジア地域研究者との国際共同研究の成果である。

(1)~(3)の著作での諸議論は、時間的・空間的可変性の経済学を自認するレギュラシオン理論 の分析手法を縦横に駆使してなされたものである以上に、(1)~(3)の著作に結実した20年間にわたる国際共同研究を通じて、ボワイエ自身も、同氏がこれまで主導してきたレギュラシオン学派 の理論体系、新古典派正統に代わりうる資本主義の政治経済学として、自らの手で集大成する地点にまで到達したといえる。同氏が志向する資本主義の政治経済学とは何か。それは授賞参考著書のタイトル『資本主義の政治経済学: 調整と危機の理論』に端的に示されている。新古典派正統におけるコア概念である「市場」「経済学」「均衡」「成長」に「資本主義」「政治経済学」「調整」「危機」を対置し、「市場の経済学: 均衡と成長の理論」に対する根源的な批判を通じての経済学の刷新がそれである。

以上、ロベール・ボワイエ氏は、半世紀にわたり広範な研究で世界の政治経済学をリードし、近年ではアジアの研究者グループ(その中核は本経済理論学会に所属する日本人研究者グループ である)との共同研究を通じて、新規性の高い著書を出版することにより独自の資本主義の政治経済学の枠組みを提示するとともに、政策構想をも発展させた。その業績は2019年経済理論学 会ラウトリッジ国際賞を授賞するのにふさわしいものと判断される。