Sunanda Sen

授賞対象著書

  • Sunanda Sen, Dominant Finance and Stagnant Economies, Oxford University Press, 2014

  • Sunanda Sen (co-edited with Maria Christina Marcuzzo), The Changing Face of Imperialism: From colonialism to contemporary capitalism, Routledge, 2018.


授賞理由

受賞者のスナンダ・セン氏(現米国バード大学レヴィ経済学研究所研究員)は、1963年にカルカッタ大学で博士号を取得し、1973年から2000年まで30年近くインド、ニューデリーのジャワハラル・ネルー大学の経済研究・計画センター(CESP)に奉職(1981-2000年教授)した。インド社会科学会議の全国会員を務め、ケンブリッジ大学クレアホールの終身会員となっている。ジュネーブに本拠をおくUNCTADおよび政府間サウスセンターの各種役職を歴任するとともに、1994年には、ケンブリッジ大学ジョーン・ロビンソン記念講座を担当したほか、ケンブリッジ大学、グルノーブル大学、バルセロナ大学を始め、3大陸の12大学で客員研究員や客員教授を歴任している。

氏は、受賞対象の2著作を含め、単行書を11冊刊行し、2014年以降に限っても、単行書14冊で章および論文を執筆するなど、幅広い研究業績を残している。氏は、帝国主義の現状と歴史の研究者として、世界的に著名な、インドを代表する反植民地主義・反帝国主義の政治経済学者である。これまでの氏の生涯に亘る同研究領域の優れた研究業績とあわせて、上記2冊の著作を対象に、2021年のJSPE-ラウトレッジ国際賞を授与するものである。

受賞対象となった2冊のうち、第1の『金融支配と不況経済』(Dominant Finance and Stagnant Economies. New Delhi: Oxford University Press 2014)は、4部構成で何年にもわたって執筆された17本の論文を総合した氏の最新の単著である。第1章が1967年の論文で、第5章(1986年)を除くと1990年代と2000年代の論文である。全体として、低成長と失業、格差拡大、およびシステム不安定性を伴う不況基調にある資本主義の現状における、その支配的特質である金融資本の隆盛の問題を解明するものとなっている。

受賞対象著作の第2である共編著『帝国主義の変貌:植民地主義から現代資本主義へ』(The Changing Face of Imperialism: From colonialism to contemporary capitalism, co-edited with Maria Christina Marcuzzo. Abingdon and New York: Routledge, 2018)の第一の貢献は、20世紀半ばの植民地解放の後、歴史的転換として偽装され変容している帝国主義の遺産と構造的諸相の継続の実状に焦点を当てて論じている点にある。共編者マルクッツィ氏とともに、セン氏は、「帝国主義は、数世紀にわたり展開し、新たな諸地域を巻き込み、権力と抑圧の変容をその領域に組み込んで継続している」ため、「支配国とその植民地」の間の歴史的および現在の関係を理解するために、ホブソン、ヒルファディング、およびレーニンの研究にたち戻ることが重要であり、引き続き、帝国 主義の概念が、現在の論争に不可欠であることを主張している。

スナンダ・セン氏は、マルクスに触発された反帝国主義の政治経済学者の世代の一員であり、植民地主義と世界的規模での資本主義の遺産の視点からグローバル資本主義の考察の形成を促してきた。同書には、スナンダ・セン自身を含め、「古い世代」に属するウトサ・パトナイク、プラバート・パトナイク、アミヤ・バグチ、および「新世代」に属するアンジャン・チャクラバーティ、スカーニャ・ボース、ビャスデブ・ダスグプタなど、インド亜大陸からの最も重要なラディカルな政治経済学者が参集している。また、いくつかの章は、メキシコのノエミ・レヴィ・オルリックや米国のジェラルド・エプスタインなど、世界の他の地域の学者によるものである。セン氏自身の論文(第10章)は、氏の研究の原点に立ち戻り、第一次世界大戦前のインドからの不当な労働力輸出の問題を探求し、イギ リスのプランテーション植民地における金融的利害を詳細に検討している。

スナンダ・セン氏の長年にわたる学術研究の基本視点と、新たなグローバル・アプローチは、政治的従属と強者によるイデオロギー主導の収奪のための市場拡大が、現在の新たな帝国主義の時代に古い帝国主義から引き継がれたものであることを解明するものである。セン氏のこれまでの学術研究は、K.マルクスとJ.M.ケインズの研究成果と知的伝統への深い洞察と、帝国主義の歴史的淵源とならんで現代世界における帝国主義の歴史的顕現と継続的遺産についての探求という、主に二つの系統の議論を総合したものである。いずれも、氏の長年にわたる多くの著作と講義内容の総合として、シュンペーターのいう「分析以前の洞察」における根本的な 要素を構成するものである。

セン氏の授賞対象の2冊は、今日、時流に乗ったキャッチフレーズでもあるポスト・コロニアリズムの一時的な流行を超えて、現代の帝国主義の継続的な影響に関する確かな一連の政治経済分析を与えるものである。同氏の研究は、全体としてみると、過去の政治的従属が,今日の支配国の利益において、経済的支配への道を用意していることを示している。氏は分析フレームワークとしてケインズを受容しているが、同時に鋭いケインズ批判も含む。それは、ケインズがその育った現実の一部として受け入れた植民地制度は、マルクス、レーニン、ルクセンブルグやその他が解明した抑圧と搾取を含むものであった点にある。一連の分析と歴史的探求を反論しがたい形で組み上げた氏の著作と各種の研究は、何世紀にもわたる抑圧によって築かれた現実が、グローバルな再構築を要することを改めて明らかにするものである。こうした同氏の研究業績は、2021年経済理論学 会ラウトリッジ国際賞を授賞するのにふさわしいものと判断される。