第13回奨励賞

13回(2022年度)経済理論学会奨励賞選考結果についての報告


13回経済理論学会奨励賞選考委員会    
平野 健(委員長),関根順一,田中英明,
西 洋,二宮健史郎,吉村信之      


 今回は,会員からの推薦論文が1点,および規則第5(2)に該当する『季刊 経済理論』掲載の論文が10点あり,合計11点を選考対象としました(推薦者からは2点の論文が提示されましたが,内1点は受賞の条件を満たしていなかったため選考対象から外しました)。奨励賞選考委員会は,慎重な審議のうえ,下記の著作が奨励賞に値するという結論に至り,2022107日に開催された本年度第3回幹事会に,選考経過と選定理由を付してその旨を報告しました。幹事会はこれを承認し,以下の会員に本学会奨励賞を授与することに決定しました。この選考結果は,108日に開かれた第13回経済理論学会奨励賞授与式で公表され,総会後,引き続き行われた授賞式で賞状と副賞が後藤康夫代表幹事から受賞者に贈られました。


小川翔吾会員の著作

Ogawa, S. (2022). Neoclassical stability and Keynesian instability: A two‐sector disequilibrium approach. Metroeconomica, 73(2), 481-513.


選定理由

 小川翔吾会員の論文は,世界金融危機や長期停滞の中で再び注目された不均衡マクロモデルを,消費財と投資財から成る二部門モデルで再構築し,その静学的,動学的な特徴を明らかにしたものである。

 論文ではまず,静学的状態において,実質賃金と資本蓄積の状態,および労働供給の過不足により,ケインズ的失業,古典派失業,抑圧インフレ均衡,利潤最大化を内包する均衡という4つのレジームが導かれる。ついで,資本蓄積と賃金が変化していく動学的過程において,理論分析による推論,グラフおよび数値計算によって,とくにケインズ的失業均衡の不安定性と古典的失業均衡の安定性が説明される。とりわけ,ケインズ的失業均衡については,それに特徴的な過剰蓄積経路と縮小経路の性質を,数値計算を通じて明らかにしている。

 本論文は,いわゆる不均衡マクロモデルの系譜に属する研究である。この系譜は本論文が渉猟するように,1960年代から80年代にかけて盛んにおこなわれてきた。小川会員の研究の独自性は,従来の研究が一部門集計モデルで取り組んできた数量制約の問題を,二部門でのモデル化によって再興したことにあり,これによって上記の新たな発見の提出と理論的発展に貢献している。

 審査においては,発散しうる経路を長期停滞として解釈することへの違和感や,労働供給に関する仮定の妥当性,さらにはいくつか誤植や表現の不備などが指摘された。しかしながら,小川会員の研究は,不均衡マクロ動学モデルを二部門に拡張し,自らの高い研究技術をもって,それが有する各レジームの特徴を導いたことは,この研究分野の可能性を広げるものである。不均衡マクロモデルは,主流派経済学とは一線を画する研究分野である。小川会員の研究は,現在主流に位置する経済理論を相対化する試みでもあり,それゆえ,総合学会として,経済学の基礎理論の確立を目指す本学会の趣旨に合致する成果であり,会員の多様な研究にも示唆に富むものと言える。